サプライチェーン攻撃の国内事例|2026年9〜10月の委託先経由の情報漏洩

サプライチェーン攻撃の国内事例|2026年9〜10月の委託先経由の情報漏洩

サプライチェーン攻撃とは、攻撃者が取引先や委託先、利用しているサービスの弱点を突き、そこを経由して本来の標的が持つ情報に入り込む攻撃です。2026年9〜10月には、IDCFクラウドへのランサムウェア攻撃が約100の組織の告知に広がりました。使っている業務サービス(SaaS)ごとに、データが最後に置かれる基盤の事業者名まで書き出しておいてください。事故の第一報を見た日に、関係する委託先を絞って問い合わせられます。

IDCFクラウドの件で影響の可能性を公表した組織のうち、弊社が公式発表を読んだ9組織では、8組織がメール配信事業者を通じてIDCFクラウドを使っていました。システム会社NECの委託先から盗まれたアカウントで、顧客の大学のシステムに侵入された事例もあります。この記事では、こうした「委託先の、さらに先」で起きた事例を各社の公式発表をもとに整理し、自社が対象かを確かめる手順と、次の事故への備えをまとめます。情報システム部門・総務部門の方と、その報告を受ける経営層の方に向けて書いています。

この記事でわかること
  • 2026年9〜10月に公表された、国内のサプライチェーン攻撃の主な事例
  • 1つの委託先の事故が、何組織の告知に広がったか
  • 委託先のさらに先で起きた事故のつながり方
  • 「漏洩のおそれ」の第一報が、その後どう変わったか
  • 自社が対象かを今日確かめる手順と、次の事故に備える台帳
集計について:本記事で扱う事案は、京都市左京区(百万遍)に拠点を置く株式会社ノーコードソリューションズが独自に集計しました。2026年9月1日から10月25日までに国内で公表された事案と、同じ期間に続報が出た事案を報道とまとめサイトから集め、そのうち156件を詳しく調べています。156件の内訳は、公式発表の本文を読んだもの145件、一部だけ公式の資料で確かめたもの4件、公式発表が見つからず報道で確かめたもの7件です。数字は2026年10月25日時点のもので、続報で変わることがあります。集計の方法は記事の最後に書いています。

監修

仙入 功樹せんにゅう こうき

代表取締役

吉村 祐樹よしむら ゆうき

COO

本記事は、AI導入の相談から開発・研修・運用定着までを支援している実務担当が監修しました。監修者の経歴と登壇実績はメンバー紹介に載せています。

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目次

2026年9〜10月の公表のうち、委託先・取引先経由の事故はどれだけあったか

情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日公開)は、組織向けの脅威の2位に「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」を挙げています。2019年から8年続けて選ばれており、1位はランサム攻撃による被害です。

弊社は、2026年9月1日から10月25日までに国内で公表された事案と、同じ期間に続報が出た事案を集め、1つの組織が1つの事案について出した公表を1件と数えました。422件のうち、委託先・取引先を経由した事故は171件です。このうち148件は、委託先のサービスを利用する組織が、その委託先で起きた事故について出した告知でした。同じ事故について複数の組織が出した告知を別々に数えているため、171件は事故の数ではありません。

集計した422件の公表の内訳

1つの組織が1つの事案について出した公表を1件と数えた数。帯の長さは件数に比例

  • 委託先のサービスを利用する組織の告知148件
  • 委託先経由のうち、利用組織の告知以外23件
  • そのほかの事案(自社のシステムや誤送付など)251件
委託先経由は148件+23件=171件。同じ事故について複数の組織が出した公表を1件と数え直すと、422件は274件になる。出典:弊社集計(2026年10月25日時点)

171件には、TOPPANによる誤送付のように攻撃によらない事故も含みます。利用組織の告知148件の元になった事故は、RIZAPの社員による生成AIへの入力などを除けば、ほとんどが不正アクセスかランサムウェアでした。期間中の情報漏洩の種類別の件数と、詳しく調べた156件の一覧は、別の記事「情報漏洩の事例一覧|2026年9〜10月の国内156件と原因の公表状況」にまとめています。

国内のサプライチェーン攻撃で、1つの事故は何組織の告知に広がったか

委託先経由の事故とは、業務やシステムを任せた委託先、または委託先が使っている基盤で起きた事故が原因で、自社が預かる情報が漏洩した、または漏洩のおそれが生じた事故のことです。期間中は、1つの事業者の事故を受けて、数十から数百の組織が告知を出す例が続きました。

元の事故何が起きたか告知を出した組織(目安)
SpeeCAN RAIDEN(アルカディア)防災情報の一斉配信サービスへの不正アクセス。メールアドレス最大約313.6万件などが漏洩のおそれ約520(自治体・消防・警察)
TEMAIRAZU(手間いらず)宿泊施設向け予約管理システムへの不正アクセス。宿泊予約の情報が最大約445万人分、漏洩のおそれ約200(宿泊施設)
IDCFクラウド(IDCフロンティア)東日本リージョン1へのランサムウェア攻撃。495の企業・自治体のサービスに影響約100
StudioWeb制作サービスへの不正アクセス。全登録者の情報と、各社のサイトのフォームに送られた内容が流出のおそれ約100
Commune(コミューン)コミュニティサービスへの不正アクセス。会員の情報が漏洩26
アットリンク(メドレー)産婦人科向けシステムへの不正アクセス。10月23日に漏洩を確認25(サービスの停止を告知した医療機関)
ソースネクスト会員情報システムへの不正アクセス。会員情報22,519,960件が流出の可能性21(ケーブルテレビ各社など)
ApplyNow採用管理サービスへの不正アクセス。応募者などの情報が漏洩の可能性15(自治体・飲食チェーンなど)
ブラストメール(ラクスライトクラウド)メール配信サービスへの不正アクセス。全契約者の契約者情報が持ち出され、配信先リストなどの漏洩も確認12

表の組織数は、サービスを利用する組織が自社サイトに出した告知と、まとめサイトに名前が載った組織をもとに数えた目安で、数え方や時点で変わります。TEMAIRAZUの施設数は、非公式のまとめでも149から260までばらついています。

表の事故のうち、影響を受けた利用組織の数をサービスの提供事業者が自ら公表したのは、IDCフロンティアだけでした。495は障害の影響を受けた企業・自治体の数で、漏洩した件数ではありません。ブラストメールを運営するラクスライトクラウドは、配信先リストなどの漏洩を確認した契約が344件あると公表していますが、契約の数なので組織の数とは一致しません。アットリンクを運営するメドレーは、対象になりうる医療機関を最大787件と公表しましたが、実際に影響を受けた医療機関の数は公表していません。ほかの事業者の多くは、影響を受けた利用組織の社名も数も出していません。利用組織が自分で告知を出さない限り、外からは影響の広がりが見えない状態でした。

「委託先の、さらに先」で起きたサプライチェーン攻撃は、どうつながっていたか

自社が直接やり取りしていない事業者で事故が起き、間に入った委託先を通じて影響が届いた例が目立ちました。公式発表で確かめた3つの例を図にしています。

情報を預けた組織と、事故が起きた場所の間

  1. JR東海ECサイト2つ
  2. メール配信を担う外部事業者社名は非公表
  3. IDCFクラウドランサムウェア
  1. 東北電力フロンティアeポイントモール
  2. ADDIX開発・運営の委託先
  3. ブラストメール不正アクセス
  1. 大阪大学全学教育用システム
  2. NEC運用の委託先
  3. NECが協力会社との共有に使ったクラウドストレージ侵入経路は非公表
出典:JR東海(2026年10月13日)、東北電力フロンティア(10月22日)、大阪大学(10月21日)の各公表。

IDCFクラウドの影響を公表した9組織のうち、8組織はメール配信事業者を通じて使っていた

10月7日にIDCFクラウドがランサムウェア攻撃を受けたあと、複数の組織が自社の情報に影響が出た可能性を公表しました。弊社はこのうち9組織の公式発表を読みました。9組織のうち、IDCFクラウドを自社で使っていたと明記していたのはPeach Aviationだけです。同社は、旅程表をメールで送るシステムをIDCFクラウドで動かしていました。

残りの8組織、つまりJR東日本、ビューカード、JR九州、NTT ExCパートナー、イズミ、マウスコンピューター、JR東海、中央競馬ピーアール・センターは、会員向けメールの配信を外部の事業者に任せており、その事業者がIDCFクラウドを使っていました。JR東海は「両サイトのメール配信サービスは外部事業者が担っています」と書いています。8組織のどれも、配信事業者の社名は公表していません。

IDCFクラウドの影響を公表した9組織は、どうつながっていたか

  • JR東日本
  • ビューカード
  • JR九州
  • NTT ExCパートナー
  • イズミ
  • マウスコンピューター
  • JR東海
  • 中央競馬ピーアール・センター
メール配信を担う外部事業者社名は8組織とも非公表
IDCFクラウド10月7日にランサムウェア攻撃
Peach Aviation旅程表のメール送信システムを自社で運用
配信事業者を通さず、直接利用
弊社が公式発表を読んだ9組織。出典:各組織の公表(2026年10月9日〜19日)

対象として公表された件数は、JR東日本の「えきねっと」会員で最大約167万件、ビューカード会員のメールアドレスで約403万件、JR九州のWeb会員で最大約130万件です。いずれも、外部のメール配信サービスで扱っていたメールアドレスなどでした。

ブラストメールでは、委託先が使っていた配信サービスで事故が起きた

10月21日に不正アクセスが分かったメール配信サービス「ブラストメール」でも、同じつながり方が見られました。東北電力フロンティアは、ポイントサイト「eポイントモール」の開発と運営をADDIXに任せていました。メールマガジンを配信していたのはADDIXで、その配信にブラストメールを使っていました。東北電力フロンティアはADDIXから連絡を受け、最大約10万件の漏洩の可能性を公表しました。タカラレーベン(MIRARTHホールディングス)はSolvvyを通じて、沖縄県南城市はマラソン大会の業務を受託した沖縄広告を通じて、ブラストメールを使っていました。

NECの事故では、大学に報告されていない協力会社がいた

NECは10月20日、システム開発と保守を任せている委託先が9月下旬にサイバー攻撃を受けたと公表しました。攻撃者は委託先から盗んだ正規のアカウントを使い、NECの顧客のシステムに侵入しました。顧客の1つである大阪公立大学では、攻撃者がNECの再委託先のアカウントを使って学内の仮想化基盤に侵入し、全キャンパスで学内システムが止まりました。

同じくNECの顧客だった大阪大学は、10月21日に「本学に報告されていない協力会社が本業務の一部に関与していたことが明らかになる」と公表しました。大学の発表によると、NECはその協力会社との情報共有のため、大学との契約に基づかずに個人情報を含むファイルをクラウドストレージに置き、作業が終わっても削除していませんでした。このファイルが第三者にダウンロードされ、卒業生・在学生・教職員77,851人分の氏名やメールアドレスなどが漏洩しました。第三者がどうやってクラウドストレージに入ったかは公表されていません。大学のシステムには、本件に関わる不正アクセスの痕跡は見つかっていません。

1台のサーバーで、最大5社分の問い合わせ情報が対象になった

問い合わせ管理システム「i-ask」を提供するスカラコミュニケーションズは、10月2日夜から3日朝にかけて管理サイトに不正にログインされ、「同一サーバ上で稼働していた、利用企業様(最大5社)のシステム環境」の問い合わせ情報が取得された可能性があると公表しました。取得された可能性のある問い合わせ情報は最大713,126件で、同じ人による複数回の問い合わせを含む延べ件数です。大和証券(約11万名)、シチズン時計(約10万名分)、損害保険ジャパン(延べ約6万件)、オリックス生命保険(約26,500件)が、それぞれ自社の顧客に告知しています。スカラコミュニケーションズは、今後の対策に「環境間の分離」を挙げています。

委託先経由の事故で、原因はどこまで公表されたか

弊社が詳しく調べた156件のうち、委託先・取引先経由に分類したのは38件でした。このうち、なぜ漏れたのかを具体的に説明していたのは2件です。TOPPANは、損保ジャパンの契約者177,426名分のデータを別の保険会社に誤って送った件について、複数社分のZIPファイルを同じフォルダに置き、ドラッグ&ドロップで操作したことまで説明しています。JR九州フードサービスの件では、顧客管理アプリの提供元が、一部のAPI(システム同士がデータをやり取りする窓口)で、権限のない第三者でも他の利用者の情報を取れる状態だったと説明しています。

残りの多くは、「委託先が不正アクセスを受けた」という説明にとどまっています。オリックス生命保険の公表文は「SC 社からは、現在、本件の原因や影響範囲について調査を進めているとの報告を受けています」としています。利用組織がどこまで説明できるかは、委託先から届く情報に左右されます。

元の事業者が詳しく説明した例もあります。SpeeCAN RAIDENを運営するアルカディアは、10月19日の資料で攻撃の経緯を時刻とともに公表しました。攻撃者は添付ファイル用サーバーの脆弱性を突いて設定ファイルを取り、ファイルの中の鍵を使って、アカウントへのログインを総当たりで試していました。なお、156件は件数の大きい事案などを中心に選んだもので、38件中2件という数は国内全体の割合を示すものではありません。

「漏洩のおそれ」の第一報は、その後どう変わったか

委託先経由の事故では、第一報で「漏洩のおそれ」として件数を公表し、数日後に「漏洩はなかった」などと続報する例が多く見られました。委託先から連絡を受けた時点では、自社の情報が漏洩の対象に含まれるかどうかを判断できず、漏洩の可能性を否定できない範囲を公表することがあるためです。

IDCFクラウドの事故で、公表はどう動いたか

  1. 10月7日IDCFクラウドがランサムウェア攻撃を受ける
  2. 10月9日JR東日本、ビューカード、JR九州、Peachが影響の可能性を公表
  3. 10月13〜14日NTT ExC、JR東海、中央競馬PR、イズミ、マウスが公表
  4. 10月14日IDCフロンティアが第5報で「流出はなかった」と判断
  5. 10月15〜19日7組織が「漏洩なし」などの続報(Peachとマウスは続報なし)
出典:IDCフロンティアと各組織の公表。日付は各社の第1報と続報の日付。
組織第一報続報(各社の表現)
JR東日本10月9日 えきねっと会員最大約167万件などが漏洩のおそれ10月15日 漏洩がなかったと判断したとの報告を受けた
ビューカード10月9日 メールアドレス約403万件が漏洩のおそれ10月15日 漏洩がなかったと判断したとの報告を受けた
JR九州10月9日 Web会員最大約130万件が漏洩のおそれ10月15日 漏洩の事実は確認されなかった
イズミ10月14日 氏名とメールアドレス最大約40万件が漏洩のおそれ10月16日 IDCFが流出はなかったと判断した、と委託先から報告
南城市10月22日ごろ(公式ページに日付の表示なし) マラソン大会のランナーのメールアドレス11,117件が漏洩のおそれ10月23日 現時点で漏洩が判明している対象には該当しない
アットリンク(メドレー)10月15日 利用する医療機関(最大787件)が漏洩の対象の可能性10月23日 登録された個人情報の漏洩を確認

表の続報のうち、JR東日本、ビューカード、JR九州、イズミの4件は、同じIDCFクラウドの事故に関するものです。IDCフロンティアは10月14日の第5報で、仮想サーバー内のデータについて「外部へのデータの流出はなかったと判断しています」と公表し、利用組織の続報がこれに続きました。反対に、アットリンクのように「おそれ」から「確認」に変わった例もあります。続報の表現は「判断した」「確認されなかった」「該当しない」と組織ごとに違うので、社内に報告するときは各社の表現をそのまま書き写してください。

自社が対象かどうかを、今日のうちに確かめるには何をするか

取引先や使っているサービスの名前をニュースで見たら、次の順に確かめます。

1

使っているサービスと、その運営会社を確かめる

契約書や請求書の支払先、各部署が使っているサービスから、ニュースに出た会社やサービスを探します。サービスの一覧がない会社は、経理の支払先の一覧から始めると漏れが少なくなります。名前が一致しても、事故が起きたのがサービス自体なのか、そのサービスを使っていた別の会社のアカウントなのかで、自社への影響は変わります。

2

事故が起きた会社の、最新の公式発表を読む

報道より先に、事故が起きた会社の公式発表を読みます。続報で対象の範囲や件数が変わるので、読んだ公表文の日付と第何報かを控えます。

3

委託先に、自社が対象かを問い合わせる

委託先には、自社の契約が対象に含まれるか、含まれるならどの情報が何件か、次の続報はいつ出るかを聞きます。個人情報保護委員会への報告が必要かどうかを自社で判断するために、どの情報をいつまでに出してもらえるかも確かめます。

4

確かめた日付と、まだ分からない点を書いて報告する

分かったことと、まだ分からないことを分けて書き、確かめた日付と、読んだ公表文の表現をそのまま添えます。委託先から回答がない項目は「回答待ち」と書いておくと、次に何を確かめればよいかが残ります。

サプライチェーン攻撃の対策として、次の事故に備えて何を準備しておくか

委託先のさらに先で起きた事故は、事故が起きた会社の名前だけを見ても、自社が関係するかどうか分かりません。個人情報保護法第25条は、個人データの取り扱いを委託した会社に、委託先を必要かつ適切に監督する義務を課しています。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、再委託の相手や業務内容、個人データの取り扱い方について委託元が事前に報告を受けるか承認すること、定期的に監査することなどを通じて、再委託先の監督と安全管理措置を十分に確かめることが望ましいとしています。

SaaSの台帳に、データが最後に置かれる場所の列を足す

契約しているSaaS(インターネット経由で使う業務サービス)を一覧にし、委託先が使っているサービスと、データが置かれる基盤の列を設けます。一覧がなければ、経理の支払先から作り始めます。下の表は書き方の例で、記入例は説明のための架空のものです。

列書く内容記入例(架空)
サービス名と契約先自社が契約している会社会員サイトの運営(A社に委託)
預けているデータ項目と、おおよその件数会員の氏名・メールアドレス、約5万件
委託先が使うサービスメール配信、問い合わせ管理、分析ツールなどメール配信はB社のサービス
データが置かれる基盤クラウドやデータセンターの事業者名B社はC社のクラウドを利用
再委託の扱い再委託の有無と、自社の事前承認が要るかA社からB社への再委託は書面で承認済み
事故時の連絡連絡が来る窓口と、契約上の期限A社の担当窓口、判明から24時間以内
解約時の削除いつ、何を、どう消すか解約から30日以内にB社分も含めて削除

この台帳があれば、「IDCFクラウドで事故」と報じられた日に、基盤の事業者名から関係する委託先を絞れます。自社のデータが実際に影響を受けたかどうかは、絞った委託先に確かめます。「預けているデータ」の列は、公表や報告で件数の上限を見積もる手がかりになります。

契約の前に、委託先に3つのことを聞く

1

再委託するか、するなら事前に承認を求めてもらえるか

大阪大学の件では、大学に報告されていない協力会社との情報共有に使ったファイルが、作業のあともクラウドストレージに残されていました。委託先が再委託するときは、自社の承認を事前に書面で得ることを契約に定めます。再委託先と共有するデータと、作業後の消し方も確かめます。

2

預けたデータは、どの事業者の基盤に置かれるか

メール配信、問い合わせ管理、データ分析のツールまで含めて、事業者名を一覧で出してもらいます。自社のデータを扱うシステムが、他社のシステムと同じサーバーで動いているかも聞いておくと、i-askのような事故が起きたときの影響範囲を見積もれます。

3

事故のとき、何時間以内に、何を知らせてもらえるか

連絡の期限に加えて、自社のデータが対象に含まれるかどうかの回答と、原因をどこまで説明するかも決めておきます。ブラストメールやStudioは、利用者が個人情報保護委員会へ報告するときに、事業者と連名で出せる受付を設けました。委託先を選ぶときは、こうした仕組みがあるかも比べてください。

使い終わったデータを、委託先に持たせない

期間中の事故では、退会した人の情報や削除済みのデータまで対象に入り、事故のあとで保管の方針を見直した例がありました。タイムズカーを運営するパーク24は、本人確認書類の画像を退会後7年間保管しており、外部送信の痕跡があった画像は約146万件でした。パーク24は、会員登録が終わったら画像を持たないルールに改めています。画像共有サービスGyazoでは、削除済みの画像のメタデータ約1.74億件が対象になりました。運営するHelpfeelは、削除から60日たった画像のメタデータを自動で消す方針を示しています。解約や退会のあと、委託先と再委託先から何がいつ消えるかを、台帳の最後の列で確かめてください。

ここまでのまとめ|社内の報告にそのまま使えます

  • 何が起きたか2026年9月1日〜10月25日に国内で出た公表422件(1組織1事案で1件)のうち、171件が委託先・取引先経由。うち148件は利用組織の告知で、事故の数ではない
  • 目立った形自社が直接やり取りしていない事業者での事故。IDCFクラウドの影響を公表した組織のうち弊社が確認した9組織では、8組織がメール配信事業者を通じて使っていた
  • 原因の公表詳しく調べた委託先経由の38件のうち、原因を具体的に説明したのは2件
  • 第一報の読み方「漏洩のおそれ」の件数は、可能性を否定できない範囲。数日後に「漏洩なし」となる例も、「確認」に変わる例もある
  • 自社でやること今日はサービスの運営会社と最新の公表を確かめて委託先に問い合わせる。次に備えて、SaaSの台帳に委託先が使うサービスと基盤、再委託の承認、事故時の連絡期限、解約時の削除を書き足す

社内AIや生成AIを入れるとき、同じことは起きるか

起こりえます。期間中にも、外部の生成AIサービスにデータを入れた例と、社内データベースへのアクセス権限を与えた分析ツールが攻撃の入口になった例がありました。

RIZAPグループの子会社では、健康保険組合などから受託した特定保健指導の対象者データを、社員が集計の途中で、個人で契約している外部の生成AIサービスにアップロードしました。委託元の全国土木建築国民健康保険組合は、対象を「19,996名分」と公表しています。弊社が確認した資料では、この全体の人数を示していたのは委託元の公表で、RIZAPの公表には人数がありませんでした。生成AIサービスの社名は、弊社が確認した4つの公式文書のどれにも書かれていません。

オンラインフィットネスのLEAN BODYは、社内のデータ分析に使っていたツール「Metabase」の脆弱性を突かれ、ツールを通じて自社のデータベースから約44万件の顧客情報を取られました。LEAN BODYは対策として「当該ツールに付与していたデータベースへのアクセス権限を必要最小限に制限」と書いており、事故の前はツールに広い権限を与えていたと読み取れます。

社内の文書やデータベースをAIに読ませる場合も、AIに与えるアクセス権限と、AIのモデルを提供する会社がデータをどう扱うかを、SaaSと同じ台帳に記録しておく必要があります。生成AIを業務で使うときの社内ルールの作り方は、テックブログの生成AIのセキュリティ・ガバナンスの設計手順にまとめています。2026年7〜10月の事故を原因の型ごとに整理した記事は、情報漏洩11件の原因と対策です。

よくある質問

Q.国内のサプライチェーン攻撃には、どんな事例がありますか。
A.2026年9〜10月には、IDCFクラウドへのランサムウェア攻撃で約100の組織が告知を出しました。メール配信サービスのブラストメールや、防災情報配信のSpeeCAN RAIDENへの不正アクセスでも、多くの利用組織が影響を公表しています。NECの事例では、攻撃者が委託先から正規のアカウントを盗み、そのアカウントを使ってNECの顧客である大学のシステムに侵入しました。
Q.委託先で漏洩が起きた場合、自社も個人情報保護委員会に報告する必要がありますか。
A.法令で報告の対象と定められた漏洩等が起きた場合、原則として委託元と委託先の双方が報告の義務を負い、連名で報告することもできます。委託先が、報告の義務を負う委託元に必要な事項を通知したときは、委託先の報告義務はなくなります(個人情報保護法第26条第1項ただし書)。本人への通知も原則として双方の義務です。ホームページなどでの公表は、報告や本人への通知とは別に判断します。
Q.ニュースの「最大○万件」は、実際に漏れた数ですか。
A.そうとは限りません。弊社が詳しく調べた156件の事案のうち、漏洩を確認した件数を公表していたのは55件で、漏洩のおそれや可能性のある件数だけを公表していたのも55件でした。単位も人数とは限らず、アカウント数やメールアドレス数、問い合わせの延べ件数のことがあります。
Q.再委託先や、委託先が使う基盤まで、契約で把握できますか。
A.再委託の事前承認と、データを置く事業者の一覧の提出は、契約で求められます。大手のクラウド事業者のように契約条件の変更に応じない相手を委託先が使っている場合は、委託先に、使っている事業者の名前だけでも出してもらい、台帳に記録してください。

まとめ|委託先に聞いても分からない経路は「不明」として残す

2026年9〜10月の事例では、事故が起きた会社と、情報を預けた組織の間に、もう1社の委託先が入っている例が多くありました。台帳を作るときは、委託先に聞いても分からなかった経路も「不明」として残し、事故のときに誰へ問い合わせるかを決めておいてください。「不明」が多く残る委託先には、契約の更新のときに、データの保管先と再委託の有無を改めて確かめてください。

記事中の数字は2026年10月25日時点です。各社の続報で変わるので、引用するときは最新の公表を確かめてください。

弊社は京都市左京区(百万遍)を拠点に、業務システムからAIエージェントまでの開発を手がけています。社内AIを作るときに、データがどの事業者の基盤まで流れるかを設計の段階から書き出すご相談も承ります。

この集計は、どのように作ったか

対象は、2026年9月1日から10月25日までに国内で公表された事案と、同じ期間に続報が出た事案です。9月より前に起きた事案でも、期間中に件数の確定や原因の公表があったものは入れました。公式発表が8月以前に出され、期間中には報道だけがあった6件は数えていません。海外の事案と、オープンソースのパッケージへの攻撃も除いています。

事案の情報は、セキュリティ専門メディアのSecurity NEXTとScanNetSecurityの9〜10月の記事、まとめサイト(piyolog、rocket-boysほか)の一覧、個人情報保護委員会の公表から集め、同じ事案の重複を除いて一覧にしました。公表された件数が大きい事案、複数の組織が告知を出すきっかけになった委託先の事故、原因の型ごとの典型例を中心に156件を選び、詳しく調べています。このうち145件は公式発表の本文を読み、4件は一部だけ公式の資料で、7件は公式発表が見つからず報道で確かめました。残りの266件のうち15件は調査の途中で公式発表を確かめ、251件は報道とまとめサイトの記載によります。まとめサイトが名前だけを挙げた組織は、422件には入れず、表の組織数の目安にだけ使っています。公表資料を整理した集計で、侵入の原因を弊社が独自に調べたものではありません。

誤りに気づいた場合は、お問い合わせフォームからお知らせください。確かめたうえで訂正します。

主な一次情報(2026年10月26日に確認。ブラストメールの件数は10月26日の更新でも変わっていないことを確認)

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • 自社でいくら堅牢に対策していても、委託先やその先のSaaS・クラウド基盤でインシデントが起きると巻き込まれる…という現実が数字でリアルに可視化されていて胃が痛くなりました。特に『使い終わったデータを委託先に残さない』『台帳にデータが最後に置かれる場所を記録する』という対策は、すぐにでも棚卸し項目へ組み込もうと思います。

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