稟議・承認ワークフローをAIで効率化|決裁が滞る場所を4手順で

「稟議が遅い」と言われる会社で実際に何が起きているかを見ていくと、承認者が忙しいから止まっている、という単純な話ではないことが多くあります。申請書が書けなくて着手されていない、過去の似た案件が探せなくて調べ物で止まっている、そもそも誰のところで止まっているのか分からない。詰まっている場所が違えば、打つ手も変わります。この記事では詰まりの切り分け方と、AIに任せられる範囲、そして任せてはいけない範囲を整理しました。

この記事でわかること

  • 決裁が滞る3つの原因と、その見分け方
  • AIが引き受けられるのは「書く」と「探す」だという線引き
  • 着手の4つの手順
  • 承認の判断そのものを任せてはいけない理由
  • ワークフローの仕組みを入れる前に決めること

この記事の信頼性:本記事は、京都市左京区(百万遍)に拠点を置く株式会社ノーコードソリューションズが、業務システム開発とAI導入支援を手がけてきた実践に基づいて執筆しています。本文の中心は、製品の仕様ではありません。弊社が支援の現場で見てきた進め方です。法令に関わる部分は所管省庁の公式情報でご確認ください。

目次

決裁が滞る場所は3つに分かれる

まず切り分けます。弊社が支援に入るときは、「稟議が遅い」という声を次の3つの軸で見ます。1と2は工程の話、3は工程ではなくそもそも状態が見えているかという前提条件です。実際に工程ごとに並べてみると、承認待ちで止まっていると思われていた案件が、起案の前や資料の確認で止まっていたことがありました。

詰まる場所 現場で起きていること 打ち手
1. 申請の前 申請者が書き方に迷って、着手そのものが後回しになる。「この案件はどの様式か」「金額の根拠はどこまで書くのか」で止まる 下書きの生成と、様式の判定。AIの出番
2. 承認の途中 承認者が判断材料を探している。過去の類似案件、社内規程の該当条項、前回の決裁理由。承認段数の多さ、不在時の代理運用、法務や情報セキュリティの確認待ちも、ここに重なります 関連資料の提示。AIの出番
3. 見えない滞留 誰のところで何日止まっているか分からない。催促が属人的になる ワークフローの仕組みとログ。AIより先に仕組みの問題

3番目にAIを入れても改善しません。状態が記録されていない業務は、まず記録される形にするのが先です。紙とメールで回っている稟議にAIを足しても、止まっている場所は見えないままです。順番を間違えると、投資しても体感が変わりません。

どれなのかは、直近の実績を並べると見当がつく

推測で議論せず、直近の稟議を10件ほど選んで書き出してください。選ぶときは様式・金額帯・承認経路をそろえます。種類が混ざると比較になりません。ここは手を抜かないでください。完了した案件だけを見ると、いま長く止まっている案件と取り下げになった案件が抜け落ちるので、進行中のものも含めます。

確認する3項目

  1. 起案までの日数:やると決まってから申請が出るまで。ここが長ければ1番目の問題
  2. 各承認者の滞留日数:受け取ってから承認するまで。中央値だけでなく最長値と承認段数も見ます。特定の人に偏っているなら、資料探しなのか、業務の集中なのか、不在なのか、権限の不明確さなのか、他部署への照会待ちなのかを個別に確かめます
  3. 差し戻しの回数と理由:書き方の不備か、判断材料の不足か。理由の内訳がそのまま打ち手になる

10件は結論ではなく、仮説を立てるための初期調査です。それでも、実測なしに「AIで稟議を効率化する」と決めるより確実です。数字を見ないまま始めると、いちばん時間を食っている工程に手が入らないまま終わります。

差し戻しの理由は、そのまま打ち手の一覧になる

3つのうち、いちばん軽視されているのが差し戻しです。差し戻しが1回入れば、その分だけリードタイムは伸びます。弊社が支援の場で書き出してもらうと、理由は次のあたりに繰り返し挙がりました。

差し戻しの理由 先に潰しておく方法
相見積もりの添付が足りない 提出前の自動チェック。添付漏れは判断のいらない項目なので機械に任せられます
比較検討した他の選択肢が書かれていない 下書きの型に項目として入れておく。空欄なら書き手が気づきます
金額の根拠がたどれない 内訳の欄を分ける。合計だけの申請を様式で受け付けない
決裁権限の区分が違う 該当しそうな規程の条項を提示する。判断には金額区分だけでなく、定款や取締役会決議の要否、利益相反や予算の有無も関わるので、提示は「探す手間を省く」までにとどめます

この表が埋まると、AIに任せる部分と様式を直せば済む部分が分かれます。差し戻しの理由には、AIを入れなくても様式の設計だけで減らせるものが混ざっています。先に安いほうから手を付けてください。


AIが引き受けられるのは「書く」と「探す」

稟議まわりで効果を測りやすいのは、書くところと探すところです。範囲を狭く見ておいたほうが、期待とのずれが起きません。その前に、何をAIにやらせて何をやらせないかを分けておきます。「稟議のAI化」に見える施策の多くは、AIでなくても済みます。

やること 向いている手段 理由
申請書の下書き、長文の要約 生成AI 決まった答えがなく、たたき台があれば人が直せる
根拠となる規程や過去案件を出す 社内検索(RAG) 出典を示せる。元文書の閲覧権限をそのまま引き継げる
回付、催促、履歴の記録 ワークフロー製品 誰にいつ渡ったかを機械が持つ。生成の必要がない
必須項目や添付の有無の確認 ルール処理(入力チェック) 条件が固定で、誤判定が起きにくい

この切り分けを飛ばすとどうなるか。ルールで十分な処理にAIを載せることになり、誤りが増えたぶんだけ確認の手間が戻ってきます。

書く|申請書の下書きを作らせる

申請者が止まる理由の多くは書き出しが決まらないことにあります。内容そのものは頭にあることが多い。過去の類似案件を渡して下書きを作らせると、ゼロから書き始める負担が減ります。

過去の稟議書をAIに渡す前に

稟議書には取引価格、取引先の担当者名、未公表の計画、契約条件が入っています。会社が契約した法人向けの環境だけを使い、個人アカウントや未承認のサービスに実文書を入れないでください。入力データが学習に使われるか、どこに何日保存されるか、誰がアクセスできるか、操作ログが残るかを、導入前に契約と設定で確認します。個人情報を含む場合の注意点は個人情報保護委員会の注意喚起にまとまっています。社内検索から参照させるときも、元文書の閲覧権限をそのまま引き継ぐ設定にしてください。

そのまま使える依頼文

「添付した過去の稟議書3件を参考に、今回の案件の稟議書の下書きを作ってください。案件は〇〇です。目的・背景・比較検討した選択肢・費用の内訳・想定リスクの順に書いてください。数字は私が後で入れるので、空欄のまま項目だけ作ってください。」

最後の一文が要点です。数字を書かせないでください。それらしい金額が入ったまま回覧されると、承認者がそれを前提に判断します。枠だけ作らせて、数字は人が入れる。誤って作られるのは金額だけではありません。規程の条番号、取引先名、比較結果、リスクの記述も同じように確かめてください。見積書などの原票から数値を写す作業は、出典の表示と照合の手順を付ければ自動化の候補になります。

探す|承認者が要る材料を先に出す

承認者が止まっているとき、探しているのは材料です。判断に迷っているとは限りません。「前に似た案件はあったか」「この金額はどの決裁権限か」「規程のどこに書いてあるか」。ここは社内文書を検索させれば短くなります。

社内規程の該当箇所を出す使い方は、社内規程チェックの自動化で扱っている仕組みとほぼ同じです。稟議のためだけに作る必要はありません。規程を扱う業務全体で共通に使えます。

デスクで申請書を作成する会社員

無料相談で、決裁が止まっている場所の測り方を整理します

直近の稟議の実測から、打ち手の順番、仕組みの設計までをご提案します。資料のご確認、ご相談のいずれからでもどうぞ。


承認の判断そのものは任せない

ここが線引きです。AIに「この稟議は承認すべきか」を判定させたくなりますが、やらないでください。理由を挙げます。

判断を任せてはいけない理由

  • 説明しにくくなる:後から「なぜ通したのか」を問われたとき、AIの判定だけでは根拠を示せません。決裁は説明責任とセットです
  • 責任の分界を説明しにくくなる:AIを使っても法的な責任がなくなるわけではありません。承認者が「AIが通したので」と言える状態を作ると、判断の過程だけが不明確になります
  • 過去の偏りを引き継ぐ:過去の決裁を学習させれば、過去の判断の癖もそのまま出ます

代わりにできるのは、判断の材料を揃えるところまでです。「規程上の該当条項はここ」「同種の案件はこの3件」「今回の見積もりは過去と比べてこの位置」。ここまで出せば、承認者が読む時間は大きく減ります。判断は人が下し、記録も人の名前で残る。この形を崩さないでください。

記録として残す項目

本人確認のとれた承認者名、承認日時、判断の根拠、参照した規程の版、AIが提示した内容、修正の履歴、例外承認の有無、権限の設定。ここまで揃って初めて、後から経緯を説明できます。なお稟議書そのものが一律に電子帳簿保存法の対象になるわけではありませんが、添付する見積書や注文書を電子データでやり取りしていれば、そのデータは保存要件の対象になり得ます。AIが抽出した要約で原本を置き換えず、原データを残したうえで訂正削除の履歴と検索性を確保してください。要件は国税庁の電子帳簿保存法に関する案内で確認できます。

自動で回してよいのは、判断のいらない部分だけ

催促の通知、書式の不備チェック、添付漏れの検出。ここは自動で構いません。「人が判断しなくても答えが1つに決まること」だけを自動化すると考えると、線を引きやすくなります。ただし答えが1つに見えても、規程が旧版のまま残っていたり、例外条件に当たったり、読み取りを誤っていれば自動では処理できません。判定できなかったものを人へ戻す経路を、最初に用意しておいてください。


着手の4手順

1

直近10件を実測して、詰まる場所を決める

起案までの日数、各承認者の滞留日数、差し戻しの回数と理由を書き出します。起案までが長いなら書く支援、承認者の滞留が長いなら探す支援、どこで止まっているか分からないなら記録の仕組みから。どれに寄っているかで、次に手を付ける場所が決まります。

2

過去の稟議書を1か所に集める

下書きの質は、参照させる過去案件で決まります。担当者のPCやメールの添付に散っている状態では、AIに渡せません。直近1年ぶんでも構わないので、検索できる場所に集めてください。集めるときは元のフォルダの閲覧権限を引き継ぎ、誰でも読める場所に寄せないようにします。これは仕組みを入れる前の準備であり、実質的にいちばん時間がかかる工程です。

3

1つの様式だけで試す

すべての稟議を対象にせず、件数が多くて型が決まっているもの、たとえば備品購入や外注の発注から始めます。件数が多いほど効果が測れ、型が決まっているほど下書きの精度が出ます。

4

1か月後に同じ3つを測り直す

起案までの日数、滞留日数、差し戻し。1と同じ指標で比べます。日数がどれだけ縮んだかを見て、次に広げる様式を選びます。変わっていなければ、選んだ様式か、詰まる場所の見立てが違っていたということです。

よくある失敗

  • 紙とメールのまま自動化しようとする:状態が記録されないので、止まっている場所が見えません
  • 全部の様式を一度に対象にする:型がばらつくと下書きの精度が落ち、評価もできません
  • 下書きの中身を確かめずに回す:金額も規程の条番号も、AIはそれらしく作ります。回覧前に人が照合してください
  • 承認の判断を任せる:説明責任が果たせなくなります

勤怠や経費のように、稟議以外の申請業務も同じ構図です。勤怠管理の自動化業務効率化の進め方も、対象を1つに絞って成果を出してから広げる考え方でまとめています。


活用イメージ|書類まわりの2つの事例

ケースA:見積書の作成を自動化した事例

稟議に添える見積書も、作成に時間がかかる書類の代表です。過去の案件をもとに書類を組み立てる流れは、稟議書の下書きとほぼ同じ設計になります。書類作成の前段をどう作るかの参考になる事例です。

見積書作成の自動化事例を読む →

ケースB:受発注の書類をデータにした事例

紙やPDFで届く書類を読み取ってデータにする流れです。申請や承認の業務でも、入口が紙のままだと状態が記録されません。まず記録される形にする、という順番を考えるときの参考になります。

受発注のデータ化事例を読む →


よくある質問

Q.稟議が遅い原因が分かりません。何から調べればよいですか。
A.直近に完了した稟議を10件選び、起案までの日数、各承認者の滞留日数、差し戻しの回数と理由を書き出してください。起案までが長ければ書く支援、承認者の滞留が長ければ探す支援、全体的に長く誰で止まっているか分からなければ仕組みの問題です。打ち手が変わるので、ここを飛ばさないでください。

Q.紙とメールで回していますが、AIから入れてもよいですか。
A.順番としては仕組みが先です。状態が記録されない業務にAIを足しても、誰のところで何日止まっているかは見えません。ただし申請書の下書き支援だけなら、紙の運用のままでも効果は出ます。「書く」の部分から始めて、記録の仕組みは並行して整えるのが現実的です。

Q.AIに承認の可否まで判定させてもよいですか。
A.技術的には可能ですが、おすすめしません。後から「なぜ通したのか」を問われたときに根拠を示せず、承認者が「AIが通したので」と言える状態が生まれます。過去の決裁を学習させれば、過去の判断の癖も引き継ぎます。判断材料を揃えるところまでにとどめ、判断と記録は人の名前で残してください。

Q.下書きに金額まで入れさせてはいけませんか。
A.枠だけ作らせて、数字は人が入れてください。それらしい金額が入ったまま回覧されると、承認者がその数字を前提に判断します。依頼文に「数字は空欄のまま項目だけ作ってください」と一文足しておくだけで防げます。

Q.どの様式から始めるとよいですか。
A.件数が多く、型が決まっているものです。備品購入や外注の発注が候補になります。件数の少ない特殊な稟議から始めると、効果も分からず精度も出ません。

Q.過去の稟議書が社内に散らばっています。
A.そこが実質的な準備作業です。下書きの質は参照させる過去案件で決まるので、担当者のPCやメールの添付に散っている状態ではAIに渡せません。直近1年ぶんでも構わないので、検索できる場所に集めてください。弊社では、この整理から対象業務の選定、仕組みの設計までを一緒に進めています。

まとめ|詰まる場所を測ってから手を打つ

「稟議が遅い」の中身は3つに分かれます。申請書が書けなくて着手が遅れているのか、承認者が判断材料を探しているのか、誰で止まっているか分からないのか。詰まる場所が違えば打ち手も違います。

直近10件で、起案までの日数、承認者ごとの滞留日数、差し戻しの回数と理由を書き出してください。様式と金額帯をそろえ、進行中の案件も含めます。3つ目が原因なら、AIより先に記録される仕組みが要ります。順番を間違えると、投資しても体感が変わりません。

AIで短くしやすいのは「書く」と「探す」です。過去案件を参照させて下書きを作らせる。承認者が要る材料を先に出す。回付や催促、必須項目の確認は、AIより既存のワークフロー製品と入力チェックのほうが向いています。

承認の判断そのものは任せないでください。説明責任が果たせなくなり、責任の分界も説明しにくくなります。材料を揃えるところまでがAIの範囲で、判断と記録は人の名前で残す。この線を最初に引いておけば、安心して広げられます。

登壇・セミナー実績

神戸商工会議所でAI活用セミナーに登壇する様子
神戸商工会議所 AI活用セミナー
開催レポートを読む →
石川県庁主催のAI活用セミナーの様子(満席の会場)
石川県庁主催 AI活用セミナー
開催レポートを読む →

神戸商工会議所・石川県庁など、各地の商工会議所や自治体でAI活用セミナーに登壇しています。現場で得た知見をもとに、京都の中小企業のAI導入を支援しています。

監修

ノーコードソリューションズ 代表取締役 仙入功樹

仙入 功樹 せんにゅう こうき

代表取締役

ノーコードソリューションズ COO 吉村祐樹

吉村 祐樹 よしむら ゆうき

COO

本記事はAI導入支援の実務担当が監修しています。京都の中小企業を中心に、AI導入の相談から開発・研修・運用定着までを支援しています。監修者の経歴と登壇実績はメンバー紹介をご覧ください。

承認業務の見直しは、ノーコードソリューションズにご相談ください

詰まっている場所の実測から、対象業務の選定、仕組みの設計までをあわせてご支援します。資料のご確認、無料相談のいずれからでもどうぞ。

ぜひ共有お願いします!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (1件)

コメントする

目次