【ノーコードソリューションズ|AI Weekly vol.6】先週の重要AIニュース5本(NVIDIA×日本の国家AIインフラ始動ほか)
こんにちは。ノーコードソリューションズの仙入です。先週は、日本のAIをめぐる動きが特に濃い一週間でした。政府が「人工知能基本計画(第Ⅱ期)」を閣議決定し、NVIDIA社と国内44社による国家規模のAI計算基盤の建設も発表されました。中小企業の経営者5,673名の調査では、生成AIを使う経営者と使わない経営者の差がはっきり数字に出ています。ソフトバンク社は、AIエージェント(調べて答えるだけでなく、その先の手続きまで実行するAI)の国内販売を始めました。イーロン・マスク氏のSpaceXAI社では、開発支援ツールが顧客のコードを大量に外部送信していた問題も明るみに出ています。今回も5本それぞれに、「で、自分はどうすればいいか」まで添えてお届けします。
7月14日、政府が「人工知能基本計画(第Ⅱ期)」を閣議決定しました。2025年12月に策定した第Ⅰ期を約7カ月で改訂する異例のスピードで、中核に据えたのが「AX(AIトランスフォーメーション)」です。AIを道具として個別の業務に試す段階から、AIがあることを前提に意思決定や業務の進め方そのものを作り直す段階へ。国の方針が一歩踏み込んだ形です。7月10日の人工知能戦略本部での議論を経ての決定で、第Ⅱ期計画には、高性能AIをサイバー攻撃対策や安全性の評価に活用する方針も盛り込まれました。同日には「統合イノベーション戦略2026」も閣議決定されています。
国の計画と聞くと、自分の仕事から遠い話に感じるかもしれません。ただ、この種の方針は、補助金や支援策の設計、自治体や大企業の調達方針へと順番に波及していきます。「AIを前提に業務を作り直す」が国の公式方針になったことで、取引先や行政の手続きも、時間はかかってもその前提に寄っていくはずです。経営の立場では、自社の計画を「既存業務のデジタル化」で止めず、「AIがいる前提なら、この業務はそもそもどう組み立て直せるか」まで踏み込んで見直すきっかけにしてください。働く一人ひとりにとっても、会社の号令を待たずにAIに触れておく理由がまた一つ増えました。国が旗を振る変化は、気づいたときには当たり前になっていることが少なくありません。
7月16日、NVIDIA社が、国産AI企業のNoetra社と共同で、大規模なAI計算基盤「Vera Rubin AIファクトリー」を日本に建設すると発表しました。CPU 13,750基と、AIの計算を担う半導体であるGPU 27,500基を備え、データセンターの電力規模は140メガワット級。経済産業省が支援する「FRONTiaプロジェクト」の計算基盤となるもので、NVIDIA社はこれを「世界初の国家AIインフラ」と位置づけています。Noetra社にはソニーグループ社・ソフトバンク社・NEC社・ホンダ社の中核4社を含む44社が出資しており、日本語に対応したマルチモーダル基盤モデル(文章・画像・映像などをまとめて扱えるAI)の研究開発に着手しました。開発したモデルは、国内の企業や開発者に広く提供される予定です。同じ週には、ファナック社・安川電機社・川崎重工業社の大手ロボットメーカー3社や富士通社との「フィジカルAI」(ロボットなど、物理世界で動くAI)分野の協業も発表されています。
日本の製造業が持つ現場のデータと、最新世代の計算基盤を組み合わせて、日本の産業向けAIを国を挙げて作る。そういうプロジェクトが、構想ではなく設備投資の段階に入りました。海外のAIに頼り切ることへの備えでもあります。製造業に関わる方には、特に縁の深い話です。数年後にこのプロジェクトのAIを育てるのは、図面・検査記録・作業ログといった現場のデータです。いま紙やバラバラのExcelで眠っているデータを、捨てずに整理しておくだけで、AIを活用できる下地は大きく変わります。製造業以外でも同じで、手順メモやマニュアル、よく使う文面を整えておくことが、AIに仕事を任せる下地になります。会社の規模を問わず、「自社のデータをAIが読める形にしておく」ことが、この流れに乗るいちばんの準備です。
7月15日、エヌエヌ生命社が、従業員300名以下の中小企業の経営者5,673名を対象にした生成AIの利用実態調査を公表しました(調査は2026年5月上旬に実施)。普段から生成AIを利用している経営者は44.2%で、60代以上でも42.7%が利用しています。業務で利用している経営者のうち51.4%は、1年以内にさらに利用を広げる予定です。その一方で、39.3%は「業務で利用しておらず、導入の検討もしていない」と答えました。使わない理由の最多は「現時点では自社に必要性を感じていない」(42.2%)です。用途は文書・メール作成(53.4%)と情報収集・リサーチ(49.6%)が中心で、ツールはChatGPTが67.6%で最多でした。
使う経営者はさらに広げようとし、使わない経営者は検討すらしていない。同じ中小企業の中で、差が開き始めています。1本目と2本目でお伝えしたとおり、国は「AIを前提に業務を作り直す」方向へ動き出しました。目を引くのは、使わない理由の中身です。最多の「自社に必要性を感じない」が、どこまで試したうえでの判断なのかは、この調査からはわかりません。ただ、利用の中心は文書・メール作成と情報収集という、業種を問わない身近な仕事です。必要かどうかは、一度試してから判断しても遅くありません。経営者なら、月数千円のツールをまず自分の机で試してみる。働く側なら、日々の定型文書をひとつAIに下書きさせてみる。会社として動くなら、「39.3%は検討すらしていない」という数字が、取引先より先に始める理由になります。二極化の「使う側」に回るのに、大きな投資は要りません。
7月14日、ソフトバンク社が、カスタマーサポート向けAIエージェントを手がける米Sierra社と戦略的パートナーシップ契約を結び(締結は7月13日)、国内の独占販売代理店として販売を開始しました。Sierra社は、OpenAI社の会長も務めるブレット・テイラー氏がCEOの企業です。対話型AIが回答案を作るだけでなく、その後の各種手続きや返品対応まで自律的に実行します。ソフトバンク社がオンライン専用ブランドLINEMOのサポートで検証したところ、従来のサービスと比べて問い合わせの解決率が83%から97%に、顧客満足度は74%から93%に向上しました。
「AIのチャット対応は的外れな回答ばかりで、結局人につなぐことになる」という印象を、この検証結果は覆しました。97%という数字は一つの窓口での結果で、どの会社でも同じ成果が出るとは限りません。それでも、対象を絞ればAIが問い合わせ対応の主力を担える段階に来たことは読み取れます。人手不足が続く問い合わせ対応は、AIエージェントの主戦場になっていきます。自社に置き換えるなら、いきなり大掛かりな導入をする必要はありません。よくある質問への一次対応や、営業時間外の受け付けなど、範囲を区切って任せるところから始められます。定型の問い合わせはAIがさばき、人はクレームや込み入った相談といった例外対応に集中する。この分担を作れると、顧客対応の品質と従業員の負担の両方が変わります。
7月14日、SpaceXAI社(旧xAI社)のAIコーディング支援ツール「Grok Build」が、作業に必要な範囲を大きく超えて顧客のプログラムコードを外部へ送信していたことが、セキュリティ研究者の調査でわかりました(米Axios報道)。ある検証では、192KBで済むタスクに対して5.1GB、必要量の約26,000倍のデータが同社管理のクラウドへ送られており、ソースコードやAPIキー(外部サービスに接続するための認証情報)が含まれる恐れがあります。イーロン・マスク氏はX上で、これまでにアップロードされた全ユーザーデータを完全に削除すると表明しました。その後、騒動から2日後の7月16日には、同社はGrok Buildのプログラムを誰でも中身を検証できる形(オープンソース)で公開しています。ただし、公開されたのはツール側のプログラムで、すでに送られたデータの扱いとは別の話です。削除が実際に行われたかを利用者の側から確かめる手段も、今のところありません。
AIツールの便利さの裏側で、何のデータが、どこへ、どれだけ送られているのか。普段は見えないその中身が、具体的な数字で明るみに出た出来事です。問題は量そのものよりも、利用者が把握できない形でコード全体が送られ、保存されていたことにあります。今回はコーディングツールでしたが、文章作成や議事録のようなクラウド型のAIサービスでも構図は同じで、入力した情報は事業者のサーバーへ渡ります。だからといって「AI禁止」に振れてしまうと、得られたはずの生産性を丸ごと手放すことになります。現実的な対応は2つです。使ってよい情報とダメな情報の線引きを決めること。そして、利用するツールのデータの扱い(入力が学習に使われるか、保存先はどこか)を確認してから社内に配ることです。個人で使う場合も、顧客名や機密の数字をそのまま貼り付けない癖をつけるだけでも、万一のときの被害を小さくできます。
先週の5本も、それぞれ別々の出来事です。日本は「AIを前提に業務を作り直す」方針を閣議決定し、NVIDIA社と国内44社は国家規模のAI基盤に着手しました。中小企業の調査では、生成AIを使う経営者と使わない経営者の差がはっきり数字に出ています。ソフトバンク社が持ち込んだAIエージェントはLINEMOの検証で問い合わせの97%を解決し、SpaceXAI社のツールはデータの扱いで信頼を損ね、AIに何を渡すかを見直す教訓を残しました。国が方針と計算基盤を整え、AIは現場で成果を出し始めています。AIは「使うかどうか」を議論する段階から、「何を、どの基盤で、どう安全に使うか」を決める段階に移っています。難しく聞こえるかもしれませんが、最初の一歩は変わりません。まずは今日の返信メールを1通、AIに下書きさせて、自分の文章と見比べてみてください。5分ほどで、任せられる仕事と任せられない仕事の感触がつかめます。その手応えが、次の判断のいちばんの材料になります。次号も来週、先週の重要ニュースを5本に絞ってお届けします。
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